不老長寿メソッド  死ぬまで若いは武器になる 鈴木祐 要約

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不老長寿メソッド 死ぬまで若いは武器になる
 

 

時計の針は巻き戻せる

サルデーニャ島の老人はなぜ若々しいのか?
 

地中海に浮かぶ風光明媚なリゾート地、イタリア・サルデーニャ島。この島は、世界の科学者たちが注目する「超長寿エリア」でもある。100歳以上の老人は世界で最も多く、その数は一般的な先進国の10倍にあたる。しかも、彼らはただ長生きであるだけではなく、健康で楽しく過ごしている。寝たきり老人はゼロ。それぞれが家族や友人と強いきずなを持ち、趣味を楽しみながら死ぬまで働き続ける。まさしく彼らは死ぬまで人生を楽しんでいるのだ。

南米ボリビアに住むチマネ族も長寿だ。アマゾンで狩猟と採集をしながら暮らしている原住民族で、年を取っても心臓病が皆無に等しい点が注目されている。動脈硬化心筋梗塞などの発症はほぼゼロで、高血圧や肥満リスクも見受けられない。

本書では、彼らのような「常識を超えた若さ」を保ち続ける人々のライフスタイルを参考に、科学の視点からアンチエイジングの要点を紹介していく。ここ十数年で、ヒトの老化に対する理解は格段に進み、若さを保つポイントが明らかになってきた。もちろん、すべての生き物にとって老いは避けられない。しかしある程度までなら、時計の針は巻き戻せるのである。

【必読ポイント!】 若返りのサイクル

若返りシステムを起動させる「苦痛」

まずは理論編だ。本書で紹介するアンチエイジングの肝は、苦痛と回復のサイクルを何度も回すことである。

苦痛についていうと、「適度な苦痛」は私たちの能力を高める。「仕事で味わった苦労が転職に役立った」というような経験は誰しもあるだろう。「運動」もそのひとつだ。1日15分の激しいエクササイズをするだけで、心疾患の病気で死亡する確率を45%、全死亡率を30%も減らすほどの効果を得られるという。そして「肉体が若い人は見た目も若い」ことは、複数の研究で実証されている。

「運動と健康の因果関係」は明らかになっていないが、もっとも有効とされる考え方が「ホルミシス」という現象である。ドイツの科学者ヒューゴ・シュルツは、「少量の毒物がイースト菌の成長を加速させている」ことを発見した。そして「すべての物質は、少量であれば刺激し、適量であれば抑制し、多量であれば殺傷する」という結論を導いている。ホルミシスとは、「多すぎたら有害だが、少なければ有益に働く作用」である。

たとえば、ポリフェノールは体の酸化作用を防いで、若返りに効くと言われる。だが、実際の抗酸化作用はとても低い。ポリフェノールは私たちの体内で炎症を起こし、炎症反応として、人体の抑制システムが起動する。すると、その炎症を修復する過程で、肉体が若返っていく。ポリフェノールが少量の毒として働くことで、人間が生来持つ心身の若返りシステムが作動するという仕組みなのだ。

徹底的な休憩で「回復」させる
 

次は「回復」のフェーズを見ていこう。アスリート界にはこんな格言がある。「ハードに訓練せよ、しかし、それ以上にハードに休憩せよ」。厳しいトレーニングは必要だが、それ以上に「回復」のフェーズが重要という意味だ。筋肉量を増やすためには、筋トレで筋繊維を傷つけたあとに、適切な休憩と栄養補給が欠かせないのは周知の事実だろう。

精神においても正しい「回復」が必要だ。私たちはストレス解消のために、だらだらテレビを見る、お菓子を食べるといった行動をとりがちだ。実のところ、ストレス対策にもっとも必要なのは「コントロール感」である。コントロール感とは、「明確な目標を持ち、それを達成するための行動がわかっている状態」を指す。これを高めてくれるのが「攻めの休憩」だ。たとえば「楽器の練習をする」「友人に悩みを相談する」などと、明確な意図を持って休憩をデザインしていくのである。

1990年代にバイオリニストに行った調査によると、優秀なプレイヤーほど自覚的に休憩をとっていたという。彼らは90分の練習ごとに30分の休憩をはさみ、散歩や瞑想をして、脳を音楽から解放させていた。「暇ができたら休もう」ではなく、計画にもとづいて休むときには休む。この姿勢がコントロール感を育み、心身の回復につながるのである。

苦痛と回復を繰り返す

心身の若返りシステム「ホルミシス」は、なぜ苦痛を与えないと動き出さないのだろうか。私たちの先祖ホモ・サピエンスは20万年前に存在していた。彼らは毎日獲物を運びながら4〜6時間も歩いた。獲物が見つからないときは、干し肉などを分け合って飢えをしのいでいた。彼らの生活は「運動」と「飢餓」による苦痛を伴っていたといえる。

ホモ・サピエンスが日々体を動かすのは食糧を求めるからであり、人類の脳には「運動を嫌うシステム」が備わっている。食が足り、運動をしない現代人の肉体は、「生きるのに困っていないから、心身の強化システムは眠らせておこう」と解釈する。すると、肉体や精神の機能を下げ始め、一気に老けてしまう。生存危機のないときに肉体機能が低下するのは、進化のプロセスで生まれた結果というわけだ。

先ほど紹介したチマネ族は1日に平均14〜15キロ歩く。そしてサルデーニャ島の老人たちは、生涯厳しい肉体労働を続けている。どちらも共通して、日常的に適量の苦痛と回復を繰り返している。これこそが、驚くほど若い肉体を保てる秘訣だ。

段階的な運動で若返る「プログレス・エクササイズ」

日常の活動量を意識的に増やす
 

次はアンチエイジングの実践編に移る。要約では「苦痛」フェーズ、「回復」フェーズのうち、「苦痛」フェーズのトレーニング方法の一部をとりあげる。

まず紹介するのは、段階的に負荷を上げていく運動法「プログレス・エクササイズ」である。簡単な活動レベルを1に設定し、そこから小刻みに苦痛レベルを上げていくことで、ホルミシス効果の発動を狙う。

レベル1では、散歩や掃除、洗濯、料理など、いつもの行動を改めて意識してみよう。ハーバード大学が行った実験では、ホテルで働くメイド84名のうち半分にだけ、日頃の仕事で消費するカロリーを伝えた。それだけでカロリーを伝えられた人たちは4週間後、一様に体重と体脂肪が減っていたという。「自分は体を動かしている」と意識するだけで、内面的に良い影響が生まれるのである。

次にレベル2では、日常的な活動、つまり「NEAT(ニート):非運動性熱産生」の量を増やしていく。NEATが1日の消費エネルギーに与える影響はとても大きく、全体の15〜50%を占める。ポイントは、複数の活動量を少しずつ上げていくことだ。月1回の床ぶきを週1回にする、歩く時間を30分から40分にするなど、すぐに改善できそうな活動を3つ選び、それぞれの負荷を1.5倍に高めることを目指そう。

それがクリアできたら、日々の活動を高負荷で行う「HIIPA(ヒーパ):高負荷偶発的身体活動」へと進む。通勤時に駅までダッシュする、階段を2段飛ばしでのぼるなど、いつもの活動を少しきつめに行う。「きつすぎる!」運動レベルを10としたら、4くらいを目指すといいだろう。

ウォーキングとインターバル速歩

レベル4はウォーキングだ。ウォーキングは、手軽さと効果のバランスが最も良いエクササイズで、その効果は「1日375分」まで増え続ける。しかし、そこまで毎日歩くのは現実的ではないため、1日20〜30分を目安にするといいだろう。これを週5回、40日間続けられたら、レベル4はクリアである。

アンチエイジングに必要な運動量は、レベル4までで十分である。もっと効率よく肉体を刺激したい人には、「インターバル速歩」を推奨する。インターバル速歩は、「ゆっくり3分歩く→すばやく3分歩く」を1セットとし、これを最低5セット繰り返す。インターバル速歩を行ったグループは、生活習慣病のスコアが17%改善されたという。まずは1日8〜10分から始めるとよいだろう。

細胞レベルで若返る「AMPK食事法」

軽微な毒物「フィトケミカル」の導入
 

運動により外側から肉体を刺激するのが「プログレス・エクササイズ」であった。これに対し、内側からホルミシスを起動させるのが「AMPK食事法」である。

AMPKとは「燃料センサー」の役割を持つ酵素の一種だ。エネルギーが足りなくなると活動し始め、全身の細胞に「肉体を効率よく使いなさい」と命令を出す働きを持っている。AMPKが起動したら肉体は最適化され、糖や脂質の代謝をうまくコントロールできるようになる。その結果、体が若返るのである。

AMPK食事法のポイントは大きく2つ、「フィトケミカルの導入」「ファスティングの実践」である。フィトケミカルは、体内で「軽微な毒物」として働く、ホルミシスを活性化させる成分だ。代表的なものにポリフェノールがあり、スパイスやハーブ、ベリー類、コーヒー、緑茶、ナッツ類に多く含まれる。ポリフェノールの1日の摂取量には明確なガイドラインが存在しないが、現時点では1日500mg前後で効果が最大化することがわかっている。この量は、ブルーベリー100〜150g、緑茶1杯、リンゴまたはオレンジ1個に相当する。

また「含硫化合物」と呼ばれる、スルフォラファン、イソチオシアネート、アリシンなどの成分を多くとるのもいい。ショウガ、ニンニク、ブロッコリーに特に多く含まれている。白菜、キャベツ、小松菜といったアブラナ科の野菜もおすすめだ。

一定の空腹期間をつくる「ファスティング

ファスティング(断食)で最も簡単なのは、「90分ファスティング」である。これは「いつもの朝食の時間を90分遅らせ、いつもの夕食の時間を90分早くする」方法である。普段の朝食が7時なら8時半、普段の夕食が20時なら18時半にすればよい。サリー大学の実験の参加者たちは、90分ファスティングを10週間行った。すると、いつもの時間に食事をしたグループと比較して、被験者の約6割が2倍も体脂肪が減ったという。

また、1日の断食時間を18時間に設定し、特定の時間に食事をする「TRF」という方法もある。6時半〜8時半のあいだに朝食を取り、それから6時間後までに夕食を終える。この場合、昼食は取らず、夕食後から次の朝食までは何も食べない。TRFを5週間続けた被験者は、インスリン感受性と血圧が大きく改善し、身体の酸化ストレスも大きく減少した。

ファスティングでは、一定の空腹期間を作り、肝臓に蓄えられたエネルギーを使い果たすことが大切だ。その間は水・お茶・ブラックコーヒー以外は口にしないこと。最初は激しい空腹やイライラに襲われる。だが、2週間ほどで苦痛がやわらぎ、1ヶ月で完全に慣れるケースが多いだろう。

エクスポージャー」でメンタルも若返る

あえてリスクを取る

メンタルの若返りにも苦痛は必須だ。人は本気で目標に向かっているとき、精神的な不快感を味わう。人間の脳には、新たな目標に向かう際、必ず苦痛をもたらすメカニズムが備わっているからだ。このタイプのストレスは脳に良い刺激を与え、ホルミシス効果を発動させてくれる。

脳に苦痛を与えるのに役立つのが、「エクスポージャー」という技法である。これは、少しだけ耐えられる不快感に身をさらす方法だ。たとえば、もっと友人がほしいのに、人に話しかけるのが苦手だったとする。この状況を打破するため、ギリギリ耐えられそうな「リスク」を設定する。たとえば、家族に悩みを打ち明ける、飲み会で乾杯のあいさつをするという行動だ。こうした「軽く心がざわつく行動」をとっていくのだ。

あえてリスクをとることで、私たちの脳は適切な刺激を受けられる。軽くストレスを感じるポジティブな挑戦を続けることで、若い心身を保てるのだ。

 

不老長寿メソッド 死ぬまで若いは武器になる
 

 

できる上司は会話が9割 林健太郎 要約

【必読ポイント!自分から動く部下を育てる

部下が自分の頭で考えない

 

「無理です!」「どうしたらいいかわかりません!」と、いとも簡単に諦めてしまう部下たちの扱いに悩む上司は多いものだ。だが、部下を「すぐ諦める部下」にしているのは、上司であるあなた自身だ。上司が部下に代わって解決策を考えてしまうために、部下は「どうせ上司がなんとかしてくれるから」と、自分で考えることを放棄してしまう。あなたは部下にとって「チョロい上司」なのだ。

こんな歪んだ関係は、できるだけ早く逆転させるべきである。上司であるあなたは、部下ではなく自分がラクできる方法を確立し、やるべき仕事に集中しなければならない。

そのためには、部下が何かに困ってあなたに相談しに来ても、「答えない」ようにしよう。対話はするが、あなたが考えた解決策を部下に与えるという行為はすっぱりやめる。その代わり、部下本人が自分の頭で解決策を考えざるを得ないような対話の流れを作るようにする。

具体的には、部下が言った通り「復唱」する、部下の発言に「合いの手」を入れる、の2つのスキルを使おう。例えば、部下が「もう無理です」と言ったら「もう無理なんだね」と復唱する。それだけで次の言葉がなかなか出ないなら、「それについて、もうちょっと詳しく教えてもらえる?」「それで?」といった具合に合いの手を入れる。

上司から合いの手が入ると、部下はヒヤリとし、説明や言い訳を始めるだろう。それでも何も言わず、部下に最後まで言い切らせよう。これを続ければ、部下は解決策をくれない上司に代わり、自分で考えるようになる。

ほめて育てているのに効果がない

 

「部下をほめて育てる」というのは、昨今の人材育成のトレンドだ。ところが、積極的にほめているのに反応が鈍く、部下が成長している実感もないと悩んでいる上司もいるだろう。

ほめる育て方がうまくいかないのは、「ほめ方」を間違っているからだ。具体的には、「ほめる」を無意味に使いすぎてしまっているのだ。

ほめすぎると、「忖度(そんたく)する部下」が生まれてしまう。部下は上司の意図を読み取り、ほめてもらえる行動だけをとるようになるのだ。また、ほめられ慣れしてしまい、何を言われても心に響かなくなる。これでは、上司からほめられてもモチベーションアップにはつながらない。

だから上司は、心からほめたいと思ったときだけ、ほめるべきである。それ以外のときは、「承認」、すなわち「相手の存在」を認めるようにしよう。相手の存在や行動、発言を「気づいているよ」「聞いているよ」と、しっかりと言葉で伝えるのだ。

承認には「ほめる」と違って、上司の主観はさほど入らない。そのため、上司の意図を忖度させることなく、部下のモチベーションを高められる。

また、確実な成果が出ていない段階でほめるのは難しくても、「プロセスの承認」はできる。「進んでいるね」「その調子だよ」と声をかければいい。

承認の言葉を普段から伝えられれば、部下のモチベーションは高まるだろう。あなたから建設的なフィードバックをすることで、部下が素直にそれを受け入れる素地をつくることにもつながる。

つい自分がしゃべりすぎてしまう

昨今、導入が進められている「1on1ミーティング」(以下、1on1)。これは、部下の自律性を引き出すための人材育成メソッドとして、上司と部下が1対1で行う個人面談のことだ。

1on1は「部下に話をさせる」ことを重視しているが、気がつけば「上司ばかりが話していた」というケースも多い。つい口を挟んでしまい、話が止まらなくなってしまうのだろう。

しかし、上司が口を挟むことで、部下は忖度して本音を言わなくなる可能性がある。これでは、1on1の意味がない。

この状況を打破するためには「傾聴」が有効だ。相手の話に耳を傾けて、相手の言葉の裏にある「本質」を見極めていこう。

もし、それでも口を挟みたくなったら「無になる」のがおすすめだ。これは言い換えると、一切の判断を「先送りする」ことである。「解決したい」モードに入りそうになったら、ひと呼吸置き、「今はそれについて判断しなくてもいい」と、「判断する」という行為の優先度を一旦下げる。そして、部下の話を聞くことに専念する。

この態度を、1on1の間ずっと維持しよう。慣れないうちは、少なくとも持ち時間の最初の4分の1は傾聴に徹することから始めてもいい。

私たちは基本的に、親身になって聞いてくれた相手に対して好感を持ちやすくなり、信頼感も生まれやすくなる。部下に話をさせることが目的の1on1は、部下の自律性を促す機会であるとともに、上司と部下の間で信頼を醸成することにもつながる。

部下の仕事力を上げる

部下が仕事を覚えない

 

人間は忘却する生き物であり、一度で仕事を覚えることは不可能に近い。とはいえ、もし何度説明しても覚えないなら、部下の「やる気スイッチ」が入っていないのかもしれない。

部下のやる気スイッチを入れるのは、上司の仕事だ。「やる気スイッチは自分で入れるものだ。自分自身もそうしてきた」という人もいるだろう。しかし、自分自身でスイッチを入れる人材だったからこそ、あなたは今「上司」として活躍しているのではないだろうか。世の中の大半の人は、なかなか自分でスイッチを入れられないものである。

ひと昔前なら、「マイホーム」「マイカー」といった、わかりやすい物質的な「鼻先のニンジン」があり、それが部下のやる気スイッチにつながっていた。しかし価値観が多様化する今、誰にでも共通するような「ニンジン」は存在しなくなっている。

現代の上司は、部下一人ひとりの「鼻先のニンジン」が何かを知っておかなければならない。普段から対話を重ね、相手がどのような価値観を持っているのかを把握しておこう。部下にとって意味のある「ニンジン」を見つけ出して共有すれば、部下はやる気を出してくれるだろう。

部下がついてきてくれない

自分とチーム内の部下の関係がどうもしっくりしない。部下と話すときも、話しかけるのはいつも自分で、反応もイマイチ……。このように、チーム内の空気に「空回り感」を察知した上司ほど、「なんとかしなければ」と焦ってしまいがちだ。しかしそんなときは、あえて「何もしない」のが一番である。

ただし、「何もしない」といっても、そのまま放置していてはいけない。上司として全力で走り続けるのを止めるだけだ。そして、冷静な目でチームに何が起きているのかを「観察」してみる。

観察の対象は次の2つだ。まず、「自分の内面」である。今、「どのような感情」がわき上がっていて、「どのような欲求」があり、「何をしたい」と考えているかなどを観察する。

仕事ができるビジネスパーソンほど、自分の感情をうまく隠す。そのため、多くの上司は自分の感情に目を向けない傾向がある。自分の感情を観察してみれば、やがて「他者の感情」にも意識が向くようになるだろう。

次に、「今、自分の周囲で起きていること」を観察する。自分のチームが、現在どのような状態にあるのかを注意深く見てみよう。チームとして、何がうまくいっているのか? チームがよりよくなるために、何が必要か? これらから気づくことは何か?

「空回りしている」といっても、全部がダメというわけではないはずだ。全否定せず、まずはうまくいっている部分を明確にして、改善点を探っていこう。焦らずに一度立ち止まることが、結果として最短で最善の解決法となる。

成果を出すチームに変える

部下が目標達成に積極的にならない

「自分で決めた目標じゃないので」と、部下が目標達成に対してネガティブな発言をしたとする。そんなとき、上司の導き方によって、今後の仕事の成果や人間関係は大きく変わる。ここでうまく対処しないと、後に大きな問題に発展してしまうかもしれない。

そもそも、部下の発言の真意はどこにあるのだろうか。ネガティブ発言はあくまで会話のきっかけで、実はほかに伝えたいことが潜んでいるのかもしれない。上司がすべきは、その「伝えたいこと」を察知し、深い対話に繋いでいくことだ。頭ごなしに否定するのではなく、部下がどういう意図で発言したかを聞き取っていこう。

中には、「目標達成のためには、販売促進の予算がもっと必要です」など、上司の立場では解決できないような、会社への不満もあるかもしれない。その場合、あなたが解決策を導く必要はない。大切なのは「解決する」ことではなく、「ただ聞く」ことである。部下は、ただ聞いてほしいから不満を打ち明けているだけなのだ。

「上司に自分の話をじっくり聞いてもらえる」という経験は、部下の心に大きな変化をもたらす。丁寧な傾聴によって、相手は本当に話したいことを開示し、話していくうちに気づきを得て、問題解決に近づいていくかもしれない。

文句を周囲に言いふらす部下がいる

 

陰でこそこそと上司への不満を言いふらす部下がいる。このタイプの部下に遭遇したら、すぐに手を打つべきだ。

多くの上司は、この「裏でコソコソ」タイプの部下を放置しがちだ。「言わせておけばいい」「相手にするのはバカバカしい」と考えているのかもしれない。しかし、この問題は、チーム全体に影響を及ぼす可能性がある。「裏でコソコソ」部下はチーム全体の士気と生産性を下げる。チーム内の活気も奪われていく。その不満は何も手を打たない上司に向かい、不信感が生まれるだろう。

「裏でコソコソ」部下に遭遇したら、「自分は上司として、どんなチームをつくりたいのか」を再考してみよう。そのビジョンに照らして、「この部下の行動は、チームの目標達成に本当に必要なのか?」を自問する。

もし「チームの目標達成に必要だ」と判断したら、関係修復を試みて「育てる」方向にシフトする。一方、もしチームに不要と判断したのなら、「異動してもらう」ことを考えるべきだ。もちろん、「異動」は最終手段で、その前にできることはしなければならない。

あなたは部下の「やる気スイッチ」を入れられているだろうか。「裏でコソコソ」部下をつくり出した原因は、あなたにあるのかもしれない。上司の接し方次第で、部下はチームに貢献してくれる人材にも、マイナスの影響を与える人材にもなり得ることを心に留めておこう。

ダイエットの科学 ティム・スペクター 要約

 

 

 

ダイエットの科学

ダイエットの科学

 

 

ダイエットという神話

ダイエット法と肥満の爆発的な増加

 

どのダイエット法が良いのかを判断することはむずかしい。それは専門家にとっても同じことだ。ダイエットに関する書籍の数は数多くあるが、現実として食事の質は世界全体で低下しつづけている。

 

2014年の時点で、アメリカでは2000万人の子どもが肥満とみなされ、人口に占める割合は30年間で3倍になった。イギリスでも成人の3分の2が過体重か肥満だし、メキシコでは肥満率がアメリカを上回っている。中国とインドの肥満率も、この30年間で3倍になった。さらに驚くべきことに、痩せている人が多いと言われている日本、韓国、フランスのような国でも、子どもの1割以上が肥満だとされている。

 

この流れが続けば、イギリスとアメリカでは、2030年までに新たに7600万人、合計すると人口の半分近くが肥満になってしまう計算になる。すなわち、糖尿病などの患者がさらに数百万人増えるということだ。当然、そこには天文学的な医療費が発生することになる。

 

 

世間のダイエット法は問題だらけ

世の中に出回っているたいていのダイエット法は、科学的な素養のない人によって考案されている。さらに、評判の高い医師ですら、自説の正当性にこだわるあまり、矛盾する新たなデータを無視してしまうことが少なくない。ダイエットという分野は、科学というよりは宗教に似ているのである。

 

これはそもそも、栄養学という分野が抱える問題でもある。栄養学では、大規模な共同研究やプロジェクトがほとんど見られない。専門家が常に互いに敵対しあっているからだ。その結果、栄養学の研究水準はほかの研究分野と比べるとかなり遅れており、ほとんどの研究は、ある一時点の状況だけを調べる横断的かつ観察的な研究にとどまっている。被験者に対してひとつの食品、あるいはひとつの食事法を無作為に割り当てて長期にわたり追跡するような、信頼性の高い無作為化比較試験はわずかしかないのが現状だ。

遺伝がすべてではない

 

同じ量の食事をとっていても、太る人と痩せる人がいる。こうした違いが生まれる原因のひとつは「遺伝子」だと考えられる。遺伝子は、食欲と最終的な体重の両方に影響する。実際、個人差の60~70%は遺伝的要因で説明できるという。

 

とはいえ、ある形質が60~70%「遺伝によるもの」だからといって、それが運命として決まっているわけではない。たとえば、遺伝子がまったく同じ一卵性双生児なのに、ウエストサイズがかなり違うこともある。また、1980年代のイギリスだと肥満は人口全体のわずか7%だったのに、今では24%にまで増加している。こうした年代的な変化も、体型が遺伝的要因だけで決まるわけでないことを示している。

 

そもそも、遺伝子が自然選択による適応を起こすには、最短でも約100世代かかる。したがって、ここに遺伝以外の要因が絡んでいるのは明らかである。その要因とは、私たちの腸内にすむ小さな微生物(腸内細菌)である。

 

 

【必読ポイント!】カギは微生物にあり

人間は微生物とともに生きてきた

現代の食生活を理解するうえで、微生物はきわめて重要である。微生物はまだまだ新しい研究分野だが、体と食べ物の関係についての理解を根本から変えつつある。これまでのダイエット法では、栄養や体重を、エネルギーの摂取と消費という観点からしか考えてこなかった。しかし、それこそがダイエットの失敗を招いていたのだ。

 

私たちと微生物の関係は深い。とくに、私たちの腸には、数万種もの微生物がすみついている。そうした多様な微生物のほとんどは、私たちの健康に必要不可欠な存在だ。私たちが食べ物を消化するのに必須なだけでなく、カロリーの吸収をコントロールしたり、生命維持に必要な酵素やビタミンを供給したり、免疫系を正常に保ったりする働きを担っている。

 

このように、私たち人間と微生物は数百万年ものあいだ、互いに生き残れるよう一緒に進化してきた。ところが最近、この共生関係に問題が生じはじめている。私たちの腸内細菌の種類が、かつてと比べて数分の1にまで減少してしまったのだ。そしてこの変化が、肥満が急増している大きな理由となっている。

 

 

腸はあなたの庭である

腸にすむ細菌のDNAを調べれば、人間のもつ2万個の遺伝子すべてを調べるよりも、その人の肥満度をはるかによく予測できる。ウイルスや菌類についても調べれば、その精度はさらに高くなるだろう。

 

たとえば、低脂肪ダイエットで効果がある人がいる一方で、高脂肪の食事をとっても大丈夫な人がいる。糖質をたくさんとっても太らない人もいれば、同じ量の糖質で太ってしまう人もいる。赤身肉を食べても問題ない人もいるし、そのせいで心臓疾患になってしまう人もいるだろう。

 

こうした現象はどれも、腸内細菌の個人差で説明できる。言い換えれば、自分のもっている腸内細菌についてしっかり理解しなければ、正しいバランスを取り戻すことはむずかしい。

 

人間の腸は庭のようなものだ。植物を育てるためには庭の土に栄養がなければならないように、体の中の微生物コミュニティを健全な状態に保つためには、腸を健全で豊かな状態にしておかなくてはならない。また、雑草や有毒な植物――有害な微生物や病原菌――が蔓延しないように、できるだけたくさんの種類の植物を育て、種をまく必要もある。大事なのは多様性なのだ。

 

残念ながら、私たちの体にすむ細菌の多様性は、ここ数十年で着実に減少している。これはまちがいなく問題だし、肥満だけでなく、アレルギーや自己免疫疾患、糖尿病が急増している主原因の可能性がある。

 

こうした問題を解決するためには、さまざまな種類の食事をとり、腸内細菌の多様性を高めることが必要不可欠だ。私たちがするべきなのは、摂取する食品の種類を増やすことであって、減らすことではないのである。

 

 

 

カロリーと運動

私たちはカロリーを誤解している

「食べる量を少なくし、もっと運動すれば、カロリーを消費して痩せる」――この神話はいまも広く信じられている。太るのはカロリーの摂取量が消費量より多いからという理屈はたしかに説得力があり、一見すると反論するのはむずかしいように思える。

 

しかし、カロリーはすべて同じというわけではない。たとえば、ファストフードで2000キロカロリーを摂取するのと、健康的な食事で2000キロカロリーを摂取するのでは、結果はまったく異なる。カロリーは、食品を燃焼させたうえで、消化吸収率の違いを考慮して算出される。だが、食品の鮮度の影響、調理による効果については無視されている。

 

また、体が食べ物からエネルギーを生みだすプロセスは、食べ物の種類や咀嚼回数、消化しやすさ、食べ合わせなどでかなり違う。当然、摂取エネルギーに対する反応も、その人の遺伝子構造や腸内細菌の状況によって異なってくる。このことから、腸内でもたらされる効果という意味で、1キロカロリーがすべて同じではないのは明らかである。

運動と遺伝子の関係

カロリーを消費するうえで、運動にはどのような効果があるのか。定期的な運動が、心臓や筋肉を鍛えるのに役立ち、寿命を延ばすという点では、専門家や栄養士の意見は一致するだろう。必要な運動量については見解が分かれているが、時間としては1週間に90分から6時間までの範囲で、汗をかく程度の適度な運動をするというのが一般的な解答だ。

 

とはいえ、少なくとも多くの人にとって、運動習慣を身につけるのは簡単ではない。一般的に、運動を継続できるかは個人の意志にかかっていると見なされている。しかし、自発的な運動を好むかどうかは遺伝子の影響によるところが大きく、70%という明確な遺伝率があると証明されている。

 

なお、エネルギー消費量の遺伝率は、ほとんどの測定結果で50%を下回る。つまり、実際のエネルギー消費においては、遺伝よりも環境のほうがわずかながら重要だと示唆されている。

運動だけでは痩せない

 

ジムのトレーニングで週1回汗を流したとしても、残念ながらそのエネルギー消費量は大きなドーナツ1個分にしかならない。日常的にジョギングをしている『USランナーズ・ワールド』誌の購読者1万2000人を追跡調査したところ、走る距離に関わりなく、ほぼすべての人が年々少しずつ太っていったという報告もある。

 

運動しても体重が減らない人がきわめて多いのは、体がその分を埋め合わせてしまうからだ。体は、脂肪の減少によって体重が減ることを防ぐようにプログラムされている。事実、運動量を増やしても、安静時のエネルギー消費は変わらないし、むしろ最大30%減少してしまうことが、複数の研究から明らかにされている。いくら運動をしていても、食事制限をしないかぎり、体重が減るということは考えにくい。

 

ただし、運動する意味がないというわけではない。太っていても運動のおかげで健康的なほうが、痩せていて運動不足であるよりもいいのは疑いようがない。運動をまったくしない場合の早死のリスクは、肥満である場合の2倍に相当する。

 

もし年間270時間ほど運動すれば、寿命を3年ほど延ばし、多くの病気の発病を遅らせることができるだろう。それに加えて、運動には腸内細菌を、より健康で多様性に富んだ状態にしてくれる効果もある。運動はあらゆる意味で有益な時間の投資なのだ。

 

 

 

これからの食事との向き合い方

自分に合ったダイエット法を

ダイエット神話のなかで最も危険なのが、食べ物への反応は誰でも同じだと考えてしまうことだ。私たちの体は誰一人として同じではない。ゆえに、摂取カロリーと消費カロリーのバランスだけにこだわってもまったく意味はないし、それどころか混乱の原因になりかねない。

 

もちろん、議論の余地のない事実もある。砂糖や加工食品の多い食生活が、腸内細菌に悪影響をおよぼすのは疑いようのないことだ。逆に、野菜や果物が多い食生活は腸内細菌によい影響を与えるため、健康にもプラスになると考えられる。ときどき軽い断食をして腸を休ませることも効果的だろう。

 

とはいえ、私たちの体とそこにすむ細菌は、一人ひとりまったく違う。柔軟性のない画一的なダイエット法を信頼してはならない。ダイエットにおいて大切なのは、栄養面に配慮しつつ、継続可能な方法によって、体重を少しずつ減らしつづけることだ。そのためには食事量だけでなく、栄養や食品の種類、食事のタイミングにいたるまで、食生活を根本的に見直す必要があるのである。

 

  • 要点1
     腸内細菌の多様性が減ってきていることが、肥満をはじめとする現代病の主原因である。
  • 要点2
     特定のダイエットが効く人と効かない人がいるのは、腸内細菌の個人差で説明できる。
  • 要点3
     カロリーの摂取量を消費量より少なくすれば痩せるというわけではない。摂取するものの質にこだわることが重要だ。
  • 要点4
     運動だけで痩せるということはほとんどない。しかし健康になるうえで、運動は非常に有益な手段である。
  • 要点5
     栄養面に配慮しつつ、継続可能な方法によって体重を少しずつ減らしつづけることが、ダイエットにおいては重要である。
  •  

    ダイエットの科学

    ダイエットの科学

     

     

 
 

小腸を強くすれば病気にならない 江田 証 要約

 

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「SIBO」とはなにか

日本人の小腸を襲う「SIBO」

 

小腸は、栄養分を吸収したり免疫力を司ったりする臓器だ。小腸が弱ると、免疫の力が落ち、風邪やインフルエンザといった感染症にかかりやすくなる。

 

健康的な小腸には、大腸と比べて細菌の数が少ない。これは、小腸の中で細菌が増えすぎないように防衛メカニズムが働いているからだ。加えて健康な小腸では、腸内細菌が多様で、免疫力が高いこともわかっている。一方、SIBO(シーボ)にかかった小腸では、爆発的に腸内細菌が増える。SIBOとは、別名を「小腸内細菌増殖症」という。大腸にあるべきバクテリアが小腸の中に入り込み、小腸に停滞してしまい、本来の居場所である大腸に移動しないときに起こる病気だ。

 

SIBOにかかった小腸の腸内細菌の数は、正常な小腸の10倍に及ぶ。さらには、腸内細菌の多様性が失われてしまうこともわかっている。そして、50パーセントのSIBO患者では、腸の粘膜の通りが良くなりすぎてしまっている。そのため、本来は通してはいけないはずの、細菌の作った毒素や未消化の栄養分まで通過させてしまう。その結果、さまざまな病気が引き起こされてしまうのだ。

【必読ポイント!】SIBOの症状

お腹の症状

腸内細菌が異常に増殖すると、細菌たちは大挙して食物を横取りするようになり、人間のほうが食物を消化しようとする前にそれを食い荒らしてしまう。人間の腸には栄養が十分にゆきわたらずに、水素ガスばかりが溜まることになる。腸内がガスで満ちると、腹部膨満感、ゲップになる。ガスが過剰になると、やせている人でも妊婦のようにお腹がせり出してしまう場合があるほどだ。

下痢と便秘

SIBOには、下痢型と便秘型がある。これらは病気が起こるメカニズムと症状が異なる。

 

下痢型のSIBOは、小腸の中で水素が発生しやすいのが特徴だ。われわれが発酵しやすい炭水化物を食べると、過剰に増殖した腸内細菌がそれをエサとして食べる。すると、炭水化物と腸内細菌が過剰な発酵を起こし、その過程で過剰な水素が発生するのだ。小腸は水素ガスに敏感であるため、水素ガスによってお腹がパンパンに張ったり、下痢になったりしてしまう。

 

便秘型のSIBOの特徴は、小腸の中でメタンガスが発生しやすいことだ。メタンガスを発生させているのは、「古細菌」という生物だ。これは細菌でもウイルスでもなく、細胞核を持たない単細胞生物である。

 

炭水化物や食物繊維をとると、腸内の細菌がそれを発酵させる。発酵によって発生した水素を古細菌が食べる。古細菌が水素を消費する過程でメタンが発生するのだ。

 

SIBOの患者が腸内に古細菌を飼っていると、メタンガスが発生し、便秘になりやすいことがわかっている。メタンガスが腸の動きを抑制し、腸内の物質を通過させる能力を鈍くするからだ。

 

なお、水素を発生するSIBOはやせ型の体型だが、メタンを発生するSIBOには肥満型の体型が多いことがわかっている。

ビタミンなどの吸収障害

 

SIBOにかかると、胆汁の働きが悪くなる。胆汁は、脂肪の分解を助ける消化液だ。胆汁の働きが悪化すると、脂肪が吸収できず、脂溶性のビタミンも吸収できなくなってしまう。

 

脂溶性のビタミンとは、ビタミンE、ビタミンD、ビタミンAだ。それぞれが欠乏すると、次のような症状が生じることがある。

 

・ビタミンE欠乏:免疫系の弱体化、視力障害、筋肉の劣化

ビタミンD欠乏:骨粗鬆症、免疫力の低下、感染症にかかりやすくなる、がんのリスクが高まる、ホルモンのトラブル

・ビタミンA欠乏:夜盲症など視力の低下、免疫系の弱体化

 

さらにSIBOは、アミノ酸やタンパク質の吸収障害も引き起こす。アミノ酸が吸収されづらくなると、精神を安定させるホルモンであるセロトニンが作られなくなり、うつや不眠になることもある。

 

肌のトラブル

肌のかさつき、にきびや湿疹、吹き出物などといった肌のトラブルも、SIBOが原因になっているケースがある。肌の健康を保つには、亜鉛マグネシウム、ビタミンEといった栄養素が重要だ。しかしSIBOで過剰なバクテリアが増えることにより、小腸に運ばれてくる栄養素が横取りされてしまうのだ。

 

また「ロザケア」という顔の赤みが見られる人では、肌の健康な人にくらべてSIBOにかかっている割合が10倍であるという統計結果もある。ロザケアの45%~65%の患者にSIBOが見られる。

「免疫システム」の異常

小腸が過剰なガスで膨らんだり縮んだりを繰り返すうち、小腸の粘膜が薄くなり、ダメージを受けることになる。また、過剰な腸内細菌が作り出す毒素は、小腸粘膜にキズを付けてしまう。そうすると、最終的には小腸に穴が空いたような状態になり、正常なときには腸の粘膜に吸収されない細菌の毒素が粘膜に入り込み、血液の流れに乗るようになる。つまり、免疫力や抵抗力が著しく下がることにつながるのだ。

なぜSIBOになってしまうのか

SIBOを引き起こす10の原因

 

SIBOを引き起こす原因としては、(1)小腸の消化管運動の障害、(2)大きなストレスや間食などの生活習慣、(3)抗生物質の乱用、(4)胃薬による胃酸過少、(5)免疫力の低下、(6)炭水化物の消化不良、食べすぎ、(7)重金属が体に蓄積、(8)急性胃腸炎、(9)大腸のバウヒン弁の障害、(10)胆のう除去など機能的な問題がある。

 

SIBOの大きな原因のひとつが、小腸の運動力低下だ。小腸はリズミカルなぜん動運動によって胃から運ばれた食べ物を大腸に送っている。小腸がぜん動していると、胃や小腸の食べ物やバクテリアを大腸まで洗い流すことができる。しかしこの運動がなくなると、食べ物の残りかすが小腸に停滞し、そこで腸内細菌が繁殖してしまう。これが、SIBOの原因となる。

 

小腸の運動機能が落ちる原因は、糖尿病をはじめとする全身疾患だ。糖尿病のほかにも、パーキンソン病甲状腺障害、急性腸炎のあと、膠原病、神経筋疾患、アミロイドーシスなどの全身性の病気によって、小腸の動きが障害されることがわかっている。

 

ストレスも、SIBOを引き起こす原因のひとつだ。腸と脳はつながっているから、脳にストレスがかかることによって腸内細菌の環境がバランスを崩してしまう。

SIBOにならないための食事法

「低FODMAP食」をとる

小腸の中で増えたバクテリアのエサになりやすいものは、「糖質」である。その中でもガスを発生させやすいのは、発酵性の糖質だ。この発酵性の糖質を「FODMAP(フォドマップ)」と呼ぶ。

 

FODMAPとは、次の、4つの発酵性の糖質をまとめたものだ。

(1) オリゴ糖(レンズ豆、ひよこ豆などの豆類、小麦やタマネギ、ニンニクなど)

(2) 乳糖(牛乳、ヨーグルトなど)

(3) フルクトース(果実やハチミツなど)

(4) ポリオール(マッシュルームやカリフラワーなど)

 

FODMAPは、多くの水分を腸に送って膨張を起こさせ、腸内細菌がその成分を発酵させることでガスを発生させる成分だ。SIBO患者は、このFODMAPを控える食事、「低FODMAP食」を取ることが有効である。これは、ハーバード大学イエール大学コロンビア大学などがその効果を証明している食事法だ。

パンは悪化させる、米は安心

たとえば、パンにはオリゴ糖が多く含まれており、お腹の不調を悪化させるため、控えるべきだ。ただし、小麦が除去されているグルテンフリーのパンや米粉パンであれば問題ない。同様に、小麦を含むラーメン、パスタ、ピザ、お好み焼き、たこ焼きなども控えたほうがいい。その代わりに、グルテンフリーの麺やパンを選ぶようにしよう。

 

小麦、大麦、ライ麦は腸内で多くの水素を発生させる、SIBOを悪化させる食品だ。それに対して、最もガスを発生させない穀物は、米である。おかゆを食べたり、間食に餅を取り入れたりするのもおすすめだ。

ラム酒は避ける、ウイスキーは安全

 

ラムはサトウキビから作られている。過剰なフルクトースが含まれているので、お腹の調子がすぐれない人にとっては避けたほうがいいお酒の代表だといえる。

 

一方、ウイスキーにはFODMAPが含まれていないため、ほとんどの人にとっても問題ないお酒である。

 

ただし、飲み過ぎには注意したい。アルコールを飲み過ぎると、腸の動きが過敏になり、お腹の不快な症状を引き起こすからだ。飲み過ぎないことに加えて、お酒を読むときには、食べ物を食べながら飲むようにするべきだ。

 

アルコールの中で飲んでもよいのは、ビール、ジン、ウオッカ、ワイン、シャンパンを含むスパークリングワイン、日本酒だ。ただし、フルクトースが多いデザートワインやポートワイン、FODMAPが豊富なフルーツを使ったカクテルには注意しよう。

納豆は避ける、豆腐は問題なし

同じ大豆から作られたものでも、納豆と豆腐ではお腹への作用の仕方が異なる。

 

納豆は、オリゴ糖が豊富に含まれている発酵食品だ。普段からお腹の調子がいい人には問題ないが、お腹の調子が悪い人にとっては避けるべき食品である。

 

豆腐にはFODMAPが含まれていないため問題ない。ただし絹ごし豆腐はオリゴ糖が豊富であるため、避けたほうがいい。

 

  • 要点1
     「SIBO(シーボ)」とは、小腸の中で腸内細菌が爆発的に増えてしまう病気である。大腸にあるべきバクテリアが小腸の中に入り込み、小腸に停滞してしまい、本来の居場所である大腸に移動しないときに起こる。
  • 要点2
     SIBOにかかると、下痢や便秘などといったお腹の不調だけでなく、ビタミンなどの吸収障害によるさまざまな不調、肌のトラブル、免疫システムの異常などを引き起こす。
  • 要点3
     SIBOにならないためには、FODMAPと呼ばれる発酵性の4つの糖質を避ける必要がある。その糖質とは、オリゴ糖、乳糖、フルクトース、ポリオールである。
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シン・ニホン AI×データ時代における日本の再生と人材育成 安宅和人 要約

 

 

シン・ニホンの実現に向けて

自ら未来を創り、仕掛ける

2016年のTEDxTokyoでシン・ニホンという言葉を生み出して以来、著者は多様なテーマで、数十のバージョンの「シン・ニホン」を生み出してきた。大人のサバイバル方法から子どもの教育、AI時代の人材育成や高等教育のあり方まで、広範なテーマを扱い、オーディエンスもバラバラだ。本書は、それらをひとつなぎに俯瞰したものを描く試みである。

日本には長らく不安と停滞感が蔓延している。現実を直視しない楽観にも、単なる悲観論にも意味はない。本当に未来を変えるべきだと思うならば、現実に向かい合い、建設的な取り組みを仕掛なければならない。少しでもましになる未来を描き、次世代にバトンを渡そう。未来は目指し、自ら創るものだ。

データ×AI時代の変化の本質

人類史に残る対局

 

2016年3月、「魔王」の異名を持つ韓国の天才棋士イ・セドルと、英国DeepMind社が開発した碁AIのAlphaGoの対局が行われた。チェスの対戦においては、1997年にAIが世界チャンピオンを打ち破った。しかし、チェスよりも盤面のパターンが極端に多い囲碁の世界では、計算機の性能が格段に進化し、iPhoneが誕生した2007年になっても、AIはアマチュア級位者に負けるほど弱かった。

この対局の数ヶ月前に、AlphaGoは欧州プロ棋士に勝利した。しかし、イ・セドルは、自分と同等のレベルに追いつくには時間が足りないはずだと考え、接戦になるとすら思っていなかった。結果は5試合中1勝4敗で、イ・セドルの敗北に終わった。さらに、翌年には、「大帝」と呼ばれる世界最強棋士、カ・ケツも3番勝負で3局全敗。人類は本気のマシンに二度と囲碁で勝つことができなくなったことが示された。

イ・セドルとの対局1ヶ月ほど前の発表によると、AlphaGoは16万局、約3000万の局面をわずか3週間で学習したうえで、自己対局や別のアルゴリズムとの組み合わせで新たに3000万局面を生み出し、その局面と勝敗結果を1週間で学習していた。人間では到底できないような訓練量を短期間で実現していたがゆえの勝利であった。

指数関数的な思考が不可欠に

 

2007年にはアマチュアよりも弱かった囲碁AIは、わずか9年でトッププロ9段すら打ち負かすようになった。深層学習が動くようになってからはわずか4年のことだ。

データ×AIの世界では、すべての変化が指数関数的に起こる。その結果、現在では不可能なことでも、5年後、10年後には可能になる。そうは言っても、そこまで急速に世の中が変化していると感じられないという人もいるだろう。その感覚は正しい。たとえば、初期値を1として、1日1ずつ増えるリニアな変化と、1日10%ずつ増える指数関数的な変化を比べてみると、最初はリニアな変化の方が大きい。しかし、途中から指数関数的な変化の方が急激に大きくなり、60日目には4倍以上、90日目には50倍以上と、信じられないほどの差が生まれる。

時間が経つと想像を絶する変化になるということが、指数関数的な変化の本質だ。これからの時代は、リニアな思考では世界を読み違える。すべての変化を「桁で考える」指数関数的な思考が不可欠だ。

すべての産業がデータ×AI化する

データ×AIが巻き起こす技術革新は、デジタルメディアやEコマースの領域だけでなく、繊維・アパレル産業、小売、農業といった伝統的な産業にも多大な影響を及ぼしている。これからは、すべての産業がこの「産業革命型」の技術革新の恩恵を受けることになるだろう。

企業価値ランキングの上位は、この10年で様変わりしている。かつては銀行、石油の元売り、メーカーが中心だったが、2019年はデータ×AIを使い倒している企業が上位のほとんどを占めている。これまでは「スケール」を取り、利益を生むことが企業価値につながっていた。しかし、変化に富む時代においては「未来を変えている感」が企業価値になり、最終的に利益につながるという真逆の構図が生まれている。未来に向けて新しい変化を仕掛ける人たちにとって、圧倒的に有利な状況だ。

未来を仕掛けようとするとき、新しい技術に注目が集まりがちだが、技術だけを身につけても未来を生み出すことはできない。著者にとっての未来は、我々の夢を、技術で解き、デザインでパッケージングしたものだ。ここでいうデザインとは、日本語の「意匠」の意に留まらず、「商品/サービス設計」、ビジネスの「系・モデル設計」がすべて一体となった、英語本来の意味での「デザイン」だ。技術の実装だけでは未来を変えることはできない。欲しい未来を思い描いて、「目に見えない特別な価値」を生み出し、領域を超えたものをつなぎデザインする力。それこそが、これからの時代に求められているのだ。

日本の現状と勝ち筋

日本だけが一人負けを続けた15年

 

データ×AIに代表される革新の波に乗り、世界的に一気に生産性が高まってきたこの15年余り、日本だけが一人負けを続けている。もはやゲームが始まったことに気づいていないといってもよい状況だ。それぞれの産業をあるべき形に刷新するだけで、日本の生産性は他の主要国に並ぶ。「当たり前」をやるべきときが来ているのだ。

産業のベースとなる科学と技術分野において、日本の大学のプレゼンスは弱まっている。2016年に中国が科学および技術関連の論文数で米国を抜き去り世界一になった頃、日本の論文数はインドに抜き去られた。15年ほど前まで世界の超有名大学の次あたりに位置していた東京大学は、2019年には英国Times Higher Educationの世界大学ランキングで世界42位だ。旧来の科学分野では依然世界トップ10に東京大学が入っているにもかかわらず、今世の中を変えている分野でのプレゼンスが極端に低い。計算機科学の分野では東大はトップ10どころか、135位に甘んじている。

第二、第三の波で勝つ

データ×AI分野で日本がここまで立ち遅れたのは、この世界での成功の鍵となる、ビッグデータの「収集」、収集したデータの「処理」、そしてこれらの利活用の仕組みを作る「人材育成」のいずれをも押さえられなかったからだ。日本は技術革新や産業革新の波を引き起こすどころか、乗ることすらできなかった。

しかし、日本に希望がないわけではない。18世紀から始まる産業革命は、新しい技術やエネルギーがバラバラと出てきた「第一フェーズ」、新しい技術が実用性を持ち、実装された「第二フェーズ」、新しく生まれた機械や産業が繋がりあって、より複雑な生態系が生まれた「第三フェーズ」に整理することができる。日本は歴史的に見て、フェーズ1を経験したことがない。しかし、フェーズ2、フェーズ3においては勝者である。

データ×AIの世界のフェーズ1はすでに終わりに近づき、産業革命同様のフェーズ2、フェーズ3が到来すると考えられる。AIには、外部から入ってくる情報をどう仕分けし識別するかという「入口系」、実際の産業での用途や機能に関連する「出口系」がある。現在のAI化の波は、デジタルマーケティング分野や決済領域に集中しており、ほとんどが入口側のテクノロジーの変化だ。出口側でAI的なソリューションを生み出すためには、出口特有のデータが必要だ。じつは、日本はオールドエコノミーの「出口産業」のほとんどを世界レベルでもつ数少ない国の一つだ。クルマや家電だけでなく、生命科学、ハードの世界においても世界のトップレベルの基礎技術を持っている。これからのAIの応用フェーズでは、日本にもかなりのチャンスがあるはずだ。

「未来を創る人」を育てる

普通ではない人の時代

スケールよりも「創造」と「刷新」が重要な世界でカギとなる人材は、普通の人とは明らかに違う「異人」だ。そのままでは、彼らは異物として排除されるか、潰されるかだ。だからこそ、異人を尊重する価値観を育み、彼らが生き延びる空間を作らなければならない。

未来を仕掛ける担い手は若者である。明治維新の思想的な指導者である吉田松陰、発明王トーマス・エジソン特殊相対性理論を誕生させたアルベルト・アインシュタイン。歴史的に見ると、世の中を本質的に刷新した人たちは驚くほど若く、いずれも30代の前半までに挑戦の開始が集中している。未来を仕掛ける担い手として、異様な才能、異人たる人材をうまく育て上げることが重要だ。

時代に即した形で、教育を刷新する

 

データ×AIの時代では、人とキカイが仕事を奪い合うのではなく、データとAIを使いこなせる人とそうではない人の戦いになる。よく、「AI対人間」という議論になるが、AIと我々が持っている知性は本質的に異なる。AIは情報処理過程のほんの一部しか実現できておらず、課題の切り分けや枠組みのデザイン、人との適切なコミュニケーションもできない。AIは本物の課題解決に対してはほとんど無力だ。人間に求められるのは、キカイを有能なサポーターとしてフル活用しながら、自分が知覚できる領域を増やし、新しいアイデアを生み出すことだ。これまでの教育現場では、「覚える力」が大切であったが、今後は現象や対象を肌感覚で理解し、知覚した内容を表現する力がより重要となる。

現在の初等教育では、キカイがやることが当たり前ともいえる、漢字の書き取りや計算ドリルに相当量のリソースを割いている。一般社会で行えばパワハラそのものである指導や、「気をつけ」「起立」などの軍事教練の名残、外国人に説明不能な校則や決まりも健在である。総じて“マシン(機械)”として子どもを育成している。その結果、これからの時代においてもっとも大切な「意思」「自分らしさ」「憧れ」のない子どもが量産されている。

時代に即した形で教育を刷新するために、まず「その人なりの心のベクトル」を育てることが教育の最大命題の一つであると認識すべきだ。

【必読ポイント!】 残すに値する未来を創る

「風の谷を創る」運動論

最後に、著者が生み出したい未来のために行っている仕掛けを紹介しよう。「風の谷を創る」という運動論だ。

2017年、社会変革を働きかける人たちの合宿に参加したところ、最後に自分が何をやりたいか深く考える時間があった。そこで著者に唐突にある考えが降りてきた。世界のあらゆる場所で人が都市に向かうようになり、郊外はすべて捨てられてしまう。これが次の世代に残すべき未来なのか。テクノロジーは人間を解放するためにあるのだから、使い倒して、僕らはもっと自然と共に生きる美しい未来を創ることはできないのか。

そうして思いついたのが、『風の谷のナウシカ』に出てくる一つの心の原風景のような集落、「風の谷」だ。「風の谷を創る」運動論は、目指すべき姿自体の見極めから始める、「ビジョン設定型の問題解決」だ。賛同者を集め、議論を重ねた結果、著者らが創ろうとしているのは「都市集中型の未来に対するオルタナティブ」だとはっきりした。自然と共に、人が共存する魅力的な空間を創る。しかも、一過性の、現在のみに通用する最適解を見つけるのではなく、継続性のある運動論にする。これは並大抵のことではない。それでも、問いが問いを生む世界で活動を続け、段階を経ながら「風の谷」の実現に向けて、分野を横断したプロジェクトが進行している。

どんな未来を創り、残したいのか。これが今一人ひとりに問われている。

 

  • 要点1
     本書は、著者が極めて広範なテーマで生み出してきた数十のバージョンの「シン・ニホン」をひとつなぎに俯瞰したものを描く試みである。
  • 要点2
     現在終わりつつあるデータ×AIの革新の「第一フェーズ」に乗り遅れた日本の勝ち筋は、「第二フェーズ」「第三フェーズ」にある。
  • 要点3
     未来を創るのは若者だ。時代に合わせて教育を刷新し、他人とは異なる軸で勝負する、「異人」をうまく育て上げることが重要だ。
  • 要点4
     未来を創るための仕掛けとして、著者は「風の谷を創る」という運動論を進めている。

 

本当の自由を手に入れる お金の大学 両@リベ大学長 要約

 

本当の自由を手に入れるお金の大学

本当の自由を手に入れるお金の大学

 

 

 

 

【必読ポイント!】STEP0 経済的に自由になるための基本

お金持ちの大原則

本書の目標は、経済的自由を達成することだ。著者の考える経済的自由とは「生活費<資産所得」という状態だ。そして、生活費<資産所得を達成するには、「生活費を下げる」「資産所得を増やす」という2つの取り組みを実践していくことになる。

所得には、自分が働くことによって得られる労働所得と、資産を働かせて得られる資産所得の2種類がある。経済的自由を達成するために重要なのは、資産所得を増やしていくことだ。労働をしなくても月に1万円が入れば、水道・光熱費が払える。月に3万円が入れば食費が払える。このように、資産所得で生活費をまかなうことができれば、生活のためのお金を気にせずに、やりたいことに専念できる。働きたければ働く、働きたくなければ働かないという選択の自由を手に入れることができるのだ。

これを実現するためには、「お金にまつわる5つの力」をバランスよく育てていく必要がある。5つの力とは、お金を「貯める力」「稼ぐ力」「増やす力」「守る力」「使う力」だ。これらを鍛えることで、家計が健全に回り、豊かに暮らせるようになるのだと著者はいう。要約ではこの内、最初の3ステップである「貯める力」「稼ぐ力」「増やす力」を紹介する。

 

STEP1 お金を《貯める》

人生の6大固定費

まずは「貯める力」を身につけることで、資産を貯めるスピードをアップさせよう。

お金を貯めるためには、「1回の支出よりも固定費を見直す」「金額が大きな支出から見直す」の2点に注意したい。金額の大きい固定費は、一度見直せば節約効果が持続し、生活費を効率よく下げることができる。人生の6大固定費は、「通信費」「光熱費」「保険」「家」「車」「税金」だ。

ここでは6つの中でも大物とされる「保険」と「家」を順に見ていこう。

保険を正しく見直そう

日本では社会保険が充実しているが、多くの人が民間の保険にも加入している。生命保険文化センターの調査では、生命保険料だけで、1世帯あたり年間38.2万円、30年間で1200万円弱もの金額を支払っているそうだ。

本書は、「起こる確率」と「起きたときの損失」という視点から、入るべき保険を見極めるべきだと指摘している。起こる確率にかかわらず、起きたときの損失が少ないものであれば、貯金でまかなうことができる。たとえば、30歳の男性が40歳までにがんになる確率は0.6%と低確率であり、約6割の人が50〜100万円の出費で済んでいる。高額ではあるが、100万円程度の貯金があれば、生活が破綻するほどの大損失にはならない。

一方、40歳の男性が死亡する確率は0.1%とさらに低確率であるが、この人の年収が500万円だと仮定すれば、定年退職までに稼げたはずの1.25億円の損失になる。残された家族の経済的損失は大きく、生活が破綻する可能性もある。保険とは、起こる確率は小さいが、起こった場合に損失が大きな事象に備えるものだ。起こる確率が高く、損失が大きいものは、そもそも保険という仕組みが成り立たない。この考え方にしたがうと、必要な民間保険は死亡・火災・自動車保険の3つということになる。

これ以外に想定されるリスクが思い浮かび、不安になった方もいるかもしれない。そうした漠然とした不安は、じつは「社会保険」でカバーされているものが多い。

「皆保険」の国である日本は、生活の土台がひっくり返ってしまうようなリスクについては、社会保険で最低限保障されている。リスク対応の基本戦略は、社会保険を使い、それでカバーできない分を民間保険で補うことだ。

手厚い「社会保険」のカバー範囲

正しくリスクを見積もるために、社会保険でカバーされている範囲を確認していこう。

病気、ケガのリスクは、健康保険(自営業者は国民健康保険)でカバーすることができる。医療費は原則3割負担であり、さらに自己負担に上限が設けられている。自己負担額が高額になった場合には「高額療養費制度」が適用され、後から払い戻しを受けられる。このおかげで、多く見積もっても貯金が100万円ほどあれば、医療費が払えなくなるということは考えにくい。さらに、病気やケガで働けなくなっても、1年6ヶ月は健康保険の「傷病手当金」での保障が受けられる。病気やケガで生活や仕事が制限される期間が1年6ヶ月以上に及んだ場合は、条件を満たせば「障害年金」を受給することができる。

国民年金」や「厚生年金」の加入者が死亡すると、遺族には「遺族年金」が支給される。この金額は家族構成や雇用形態、給与水準によって変化する。自分の遺族年金の金額をふまえたうえで、足りない分を生命保険で補うという視点で見直してみよう。

失業時には、雇用保険の「失業給付」が頼りになる。被保険者期間が離職の日以前2年間に通算12ヶ月以上あり、働く意思と能力があるにもかかわらず就業に就くことができない状態にあることが認められれば、90〜360日の間給付を受けることができる。

年金制度の仕組みを知ると、老後のリスクについての不安も軽減するだろう。公的年金の財源は、「現役世代からの保険料」「税金等」「積立金」の3つである。「税金制度は破綻する」という言説もあるが、人口減少を見越して170兆円もの積立金が運用されており、当面は破綻するとは考えにくい。また、「払い損」と言われることのある受給額についても、10年受給すれば元がとれる計算になり、平均寿命から考えれば払い損になる可能性の方が低い。老後は、公的年金+個人資産で生活することを想定しておこう。

家のリセールバリューを考えよう

続いては大物固定費の代表格である「家賃」について見直そう。「賃貸かマイホームか」という定番の議論について、本書の結論は、「リセールバリューの高い家を買えるならマイホームがお得だが、選ぶ自信がない人は賃貸が得」である。リセールバリューとは、「売却時の金額」のことだ。購入時と同等かそれ以上の金額で売却できる家を購入できるのであれば、経済的自由に近づくことができる。

しかし、現実的には不動産の素人にリセールバリューの高い家を購入することはほぼ不可能だ。日本は「人口減少・空き家増加・地価減少」の状態であり、基本的に資本価値の上昇は見込めない。一等地はすでに資産家が保有しており、手放すことはないだろう。加えて、たまに出る優良な物件は、不動産投資上級者や資産家が優先的に手に入れるため、素人が良い物件に巡り合うのはほぼ不可能なのだ。

マイホームのほとんどは購入後にすぐに負債となり、資産価値の増加は見込めない。心を豊かにするための贅沢だと割り切って購入するのであれば、その選択は「あり」だ。しかし、経済的自由を目指すという意味では大きな足かせとなるのが現実だ。家の出費を抑えたい人にとっての王道は、やはり「賃貸に住む」という選択だ。

STEP2 お金を《稼ぐ》 

転職で給与所得を増やす

貯める力を身につけて支出を減らせたら、次は稼ぐ力を高めよう。「収入パワー」が足りない段階では、小さな資産しか買うことができず、資産所得で効率的にお金を増やすことができない。まずは稼ぐ力を伸ばして、労働所得を増やすことが先決だ。

労働所得は、お給料としてもらえる給与所得と、自分の事業から得られる事業所得の2つに分けられる。給与所得が増えると、その分税金の負担も大きくなる。そのため、給与所得だけで入ってくるお金を増やそうとするのは現実的ではない。まずは給与所得で生活基盤を固めて、副業で事業所得をつくることを検討しよう。

給与所得自体が十分でないと感じている場合は、転職を検討するのもひとつの手だ。スキルがある人であれば、転職によって昇給よりも早く年収アップを狙える可能性がある。転職活動をしても、必ず転職しなければいけないわけではない。転職活動を通して、「自分の市場価値」を把握することも有効だ。

副業で事業所得を生み出す

次に、労働所得の2つめ、事業所得を得るために副業を始めてみよう。最初の一歩としては、メルカリやヤフオク!などで不要な物を売ることから始めよう。ここには、「需要と供給を調べる」「価格設定をする」「顧客とやりとりする」という商売の基本がつまっている。そして、たとえ少額でも「自分の力で稼ぐ喜び」を知ることができる。そこから、「どうしたらもっと儲かるか」「効率よく稼ぐにはどうしたらいいか」といったビジネスセンスにつながる気づきが得られるはずだ。

稼ぐ力を鍛える準備として、SNSでの情報発信もおすすめだ。SNSをやるメリットは「情報感度が高くなる」「伝える力・発信力が鍛えられる」「副業や転職をする上で有利」の3つが挙げられる。自ら発信することで発信力が鍛えられると同時に、様々な情報に触れる機会が増す。さらに、SNSで発信したことがそのまま名刺代わりにもなる。つまり、発信内容から自身の「人となり」が伝わるため、自分がどのような人間で、どのような経験を積み、どのような価値観を持っているかをアピールすることができるのだ。

小さな副業とSNSの活用が進んだら、次は将来性の高い副業へとステップアップしよう。ここで押さえておきたいポイントが、フロー型とストック型のビジネスの違いだ。自分がやった分だけすぐお金になるのがフロー型、お金を得るまでに時間がかかるが、自分が動かなくても収入源になるのがストック型だ。たとえば、同じウェブライティングであっても、記事作成の請負はフロー型、ブログ運営はストック型に該当する。自分の目的に合った形態を選んでいこう。

STEP3 お金を《増やす》 

「お金のなる木」を購入しよう

「貯める」力と「稼ぐ」力が身についたら、次はいよいよ資産所得によってお金を増やす力を育てよう。つまり、投資によって「お金のなる木」を購入し、労働をしなくても収入を得る仕組みを構築するということだ。代表的な投資商品は大きく分けて「株式」「債券」「不動産」「コモディティ(商品)」「預金」の5つある。ここでは株式や債権を含めた「ファンド」について取り上げる。

初心者におすすめなのは「投資信託(ファンド)」だ。投資信託とは「たくさんの投資家から集めたお金をまとめ、運用の専門家が代わりに投資・運用する商品」のことだ。運用をプロに任せられ、少額からでも購入することができる。

ファンドには、値動きを表す「指数」と連動しているインデックスファンドと、指数に勝とうとするアクティブファンドがある。ほとんどのアクティブファンドよりもインデックスファンドの方が成績が良いことから、本書でのおすすめはインデックスファンドだ。

著者のお気に入りは「S&P500」という指数に連動したインデックスファンドだ。S&P500とは、アメリカで時価総額の大きい主要500社の株価を基に算出される「株価指数」だ。日本株は1990年以降上下を繰り返しているが、アメリカ株は1880年以降長期的には上昇を続けている。また、アメリカは途上国なみに人口増加が続いている唯一の先進国でもある。そして、金融法制が整っており、世界を変えるイノベーションが生まれてきた国でもある。今後もアメリカの株式市場の成長が期待できるといえるだろう。

  • 要点1
     経済的自由とは、生活費を資産所得が上回る状態を達成することだ。生活費を下げ、資産所得を増やすには「お金にまつわる5つの力」をバランスよく育てる必要がある。
  • 要点2
     人生の6大固定費を見直すことで、お金を「貯める力」を身につけることができる。
  • 要点3
     お金を「稼ぐ力」で特に重要となるのが、自分の事業でお金をもらう「事業所得」を増やすための副業だ。
  • 要点4
     「稼ぐ力」を鍛えて得たお金で、「お金のなる木」を購入して「増やす力」を手に入れよう。初心者へのおすすめは経済指数に連動したインデックスファンドだ。
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    本当の自由を手に入れるお金の大学

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