不老長寿メソッド  死ぬまで若いは武器になる 鈴木祐 要約

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不老長寿メソッド 死ぬまで若いは武器になる
 

 

時計の針は巻き戻せる

サルデーニャ島の老人はなぜ若々しいのか?
 

地中海に浮かぶ風光明媚なリゾート地、イタリア・サルデーニャ島。この島は、世界の科学者たちが注目する「超長寿エリア」でもある。100歳以上の老人は世界で最も多く、その数は一般的な先進国の10倍にあたる。しかも、彼らはただ長生きであるだけではなく、健康で楽しく過ごしている。寝たきり老人はゼロ。それぞれが家族や友人と強いきずなを持ち、趣味を楽しみながら死ぬまで働き続ける。まさしく彼らは死ぬまで人生を楽しんでいるのだ。

南米ボリビアに住むチマネ族も長寿だ。アマゾンで狩猟と採集をしながら暮らしている原住民族で、年を取っても心臓病が皆無に等しい点が注目されている。動脈硬化心筋梗塞などの発症はほぼゼロで、高血圧や肥満リスクも見受けられない。

本書では、彼らのような「常識を超えた若さ」を保ち続ける人々のライフスタイルを参考に、科学の視点からアンチエイジングの要点を紹介していく。ここ十数年で、ヒトの老化に対する理解は格段に進み、若さを保つポイントが明らかになってきた。もちろん、すべての生き物にとって老いは避けられない。しかしある程度までなら、時計の針は巻き戻せるのである。

【必読ポイント!】 若返りのサイクル

若返りシステムを起動させる「苦痛」

まずは理論編だ。本書で紹介するアンチエイジングの肝は、苦痛と回復のサイクルを何度も回すことである。

苦痛についていうと、「適度な苦痛」は私たちの能力を高める。「仕事で味わった苦労が転職に役立った」というような経験は誰しもあるだろう。「運動」もそのひとつだ。1日15分の激しいエクササイズをするだけで、心疾患の病気で死亡する確率を45%、全死亡率を30%も減らすほどの効果を得られるという。そして「肉体が若い人は見た目も若い」ことは、複数の研究で実証されている。

「運動と健康の因果関係」は明らかになっていないが、もっとも有効とされる考え方が「ホルミシス」という現象である。ドイツの科学者ヒューゴ・シュルツは、「少量の毒物がイースト菌の成長を加速させている」ことを発見した。そして「すべての物質は、少量であれば刺激し、適量であれば抑制し、多量であれば殺傷する」という結論を導いている。ホルミシスとは、「多すぎたら有害だが、少なければ有益に働く作用」である。

たとえば、ポリフェノールは体の酸化作用を防いで、若返りに効くと言われる。だが、実際の抗酸化作用はとても低い。ポリフェノールは私たちの体内で炎症を起こし、炎症反応として、人体の抑制システムが起動する。すると、その炎症を修復する過程で、肉体が若返っていく。ポリフェノールが少量の毒として働くことで、人間が生来持つ心身の若返りシステムが作動するという仕組みなのだ。

徹底的な休憩で「回復」させる
 

次は「回復」のフェーズを見ていこう。アスリート界にはこんな格言がある。「ハードに訓練せよ、しかし、それ以上にハードに休憩せよ」。厳しいトレーニングは必要だが、それ以上に「回復」のフェーズが重要という意味だ。筋肉量を増やすためには、筋トレで筋繊維を傷つけたあとに、適切な休憩と栄養補給が欠かせないのは周知の事実だろう。

精神においても正しい「回復」が必要だ。私たちはストレス解消のために、だらだらテレビを見る、お菓子を食べるといった行動をとりがちだ。実のところ、ストレス対策にもっとも必要なのは「コントロール感」である。コントロール感とは、「明確な目標を持ち、それを達成するための行動がわかっている状態」を指す。これを高めてくれるのが「攻めの休憩」だ。たとえば「楽器の練習をする」「友人に悩みを相談する」などと、明確な意図を持って休憩をデザインしていくのである。

1990年代にバイオリニストに行った調査によると、優秀なプレイヤーほど自覚的に休憩をとっていたという。彼らは90分の練習ごとに30分の休憩をはさみ、散歩や瞑想をして、脳を音楽から解放させていた。「暇ができたら休もう」ではなく、計画にもとづいて休むときには休む。この姿勢がコントロール感を育み、心身の回復につながるのである。

苦痛と回復を繰り返す

心身の若返りシステム「ホルミシス」は、なぜ苦痛を与えないと動き出さないのだろうか。私たちの先祖ホモ・サピエンスは20万年前に存在していた。彼らは毎日獲物を運びながら4〜6時間も歩いた。獲物が見つからないときは、干し肉などを分け合って飢えをしのいでいた。彼らの生活は「運動」と「飢餓」による苦痛を伴っていたといえる。

ホモ・サピエンスが日々体を動かすのは食糧を求めるからであり、人類の脳には「運動を嫌うシステム」が備わっている。食が足り、運動をしない現代人の肉体は、「生きるのに困っていないから、心身の強化システムは眠らせておこう」と解釈する。すると、肉体や精神の機能を下げ始め、一気に老けてしまう。生存危機のないときに肉体機能が低下するのは、進化のプロセスで生まれた結果というわけだ。

先ほど紹介したチマネ族は1日に平均14〜15キロ歩く。そしてサルデーニャ島の老人たちは、生涯厳しい肉体労働を続けている。どちらも共通して、日常的に適量の苦痛と回復を繰り返している。これこそが、驚くほど若い肉体を保てる秘訣だ。

段階的な運動で若返る「プログレス・エクササイズ」

日常の活動量を意識的に増やす
 

次はアンチエイジングの実践編に移る。要約では「苦痛」フェーズ、「回復」フェーズのうち、「苦痛」フェーズのトレーニング方法の一部をとりあげる。

まず紹介するのは、段階的に負荷を上げていく運動法「プログレス・エクササイズ」である。簡単な活動レベルを1に設定し、そこから小刻みに苦痛レベルを上げていくことで、ホルミシス効果の発動を狙う。

レベル1では、散歩や掃除、洗濯、料理など、いつもの行動を改めて意識してみよう。ハーバード大学が行った実験では、ホテルで働くメイド84名のうち半分にだけ、日頃の仕事で消費するカロリーを伝えた。それだけでカロリーを伝えられた人たちは4週間後、一様に体重と体脂肪が減っていたという。「自分は体を動かしている」と意識するだけで、内面的に良い影響が生まれるのである。

次にレベル2では、日常的な活動、つまり「NEAT(ニート):非運動性熱産生」の量を増やしていく。NEATが1日の消費エネルギーに与える影響はとても大きく、全体の15〜50%を占める。ポイントは、複数の活動量を少しずつ上げていくことだ。月1回の床ぶきを週1回にする、歩く時間を30分から40分にするなど、すぐに改善できそうな活動を3つ選び、それぞれの負荷を1.5倍に高めることを目指そう。

それがクリアできたら、日々の活動を高負荷で行う「HIIPA(ヒーパ):高負荷偶発的身体活動」へと進む。通勤時に駅までダッシュする、階段を2段飛ばしでのぼるなど、いつもの活動を少しきつめに行う。「きつすぎる!」運動レベルを10としたら、4くらいを目指すといいだろう。

ウォーキングとインターバル速歩

レベル4はウォーキングだ。ウォーキングは、手軽さと効果のバランスが最も良いエクササイズで、その効果は「1日375分」まで増え続ける。しかし、そこまで毎日歩くのは現実的ではないため、1日20〜30分を目安にするといいだろう。これを週5回、40日間続けられたら、レベル4はクリアである。

アンチエイジングに必要な運動量は、レベル4までで十分である。もっと効率よく肉体を刺激したい人には、「インターバル速歩」を推奨する。インターバル速歩は、「ゆっくり3分歩く→すばやく3分歩く」を1セットとし、これを最低5セット繰り返す。インターバル速歩を行ったグループは、生活習慣病のスコアが17%改善されたという。まずは1日8〜10分から始めるとよいだろう。

細胞レベルで若返る「AMPK食事法」

軽微な毒物「フィトケミカル」の導入
 

運動により外側から肉体を刺激するのが「プログレス・エクササイズ」であった。これに対し、内側からホルミシスを起動させるのが「AMPK食事法」である。

AMPKとは「燃料センサー」の役割を持つ酵素の一種だ。エネルギーが足りなくなると活動し始め、全身の細胞に「肉体を効率よく使いなさい」と命令を出す働きを持っている。AMPKが起動したら肉体は最適化され、糖や脂質の代謝をうまくコントロールできるようになる。その結果、体が若返るのである。

AMPK食事法のポイントは大きく2つ、「フィトケミカルの導入」「ファスティングの実践」である。フィトケミカルは、体内で「軽微な毒物」として働く、ホルミシスを活性化させる成分だ。代表的なものにポリフェノールがあり、スパイスやハーブ、ベリー類、コーヒー、緑茶、ナッツ類に多く含まれる。ポリフェノールの1日の摂取量には明確なガイドラインが存在しないが、現時点では1日500mg前後で効果が最大化することがわかっている。この量は、ブルーベリー100〜150g、緑茶1杯、リンゴまたはオレンジ1個に相当する。

また「含硫化合物」と呼ばれる、スルフォラファン、イソチオシアネート、アリシンなどの成分を多くとるのもいい。ショウガ、ニンニク、ブロッコリーに特に多く含まれている。白菜、キャベツ、小松菜といったアブラナ科の野菜もおすすめだ。

一定の空腹期間をつくる「ファスティング

ファスティング(断食)で最も簡単なのは、「90分ファスティング」である。これは「いつもの朝食の時間を90分遅らせ、いつもの夕食の時間を90分早くする」方法である。普段の朝食が7時なら8時半、普段の夕食が20時なら18時半にすればよい。サリー大学の実験の参加者たちは、90分ファスティングを10週間行った。すると、いつもの時間に食事をしたグループと比較して、被験者の約6割が2倍も体脂肪が減ったという。

また、1日の断食時間を18時間に設定し、特定の時間に食事をする「TRF」という方法もある。6時半〜8時半のあいだに朝食を取り、それから6時間後までに夕食を終える。この場合、昼食は取らず、夕食後から次の朝食までは何も食べない。TRFを5週間続けた被験者は、インスリン感受性と血圧が大きく改善し、身体の酸化ストレスも大きく減少した。

ファスティングでは、一定の空腹期間を作り、肝臓に蓄えられたエネルギーを使い果たすことが大切だ。その間は水・お茶・ブラックコーヒー以外は口にしないこと。最初は激しい空腹やイライラに襲われる。だが、2週間ほどで苦痛がやわらぎ、1ヶ月で完全に慣れるケースが多いだろう。

エクスポージャー」でメンタルも若返る

あえてリスクを取る

メンタルの若返りにも苦痛は必須だ。人は本気で目標に向かっているとき、精神的な不快感を味わう。人間の脳には、新たな目標に向かう際、必ず苦痛をもたらすメカニズムが備わっているからだ。このタイプのストレスは脳に良い刺激を与え、ホルミシス効果を発動させてくれる。

脳に苦痛を与えるのに役立つのが、「エクスポージャー」という技法である。これは、少しだけ耐えられる不快感に身をさらす方法だ。たとえば、もっと友人がほしいのに、人に話しかけるのが苦手だったとする。この状況を打破するため、ギリギリ耐えられそうな「リスク」を設定する。たとえば、家族に悩みを打ち明ける、飲み会で乾杯のあいさつをするという行動だ。こうした「軽く心がざわつく行動」をとっていくのだ。

あえてリスクをとることで、私たちの脳は適切な刺激を受けられる。軽くストレスを感じるポジティブな挑戦を続けることで、若い心身を保てるのだ。

 

不老長寿メソッド 死ぬまで若いは武器になる